Vol.05 〜ちいさな島の、大きな希望をのせて…〜
株式会社バーズ・プランニング 松尾聡子さん
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【 https://tbk.theshop.jp/】
地域の可能性をどんどん広げていく彼女。なぜ彼女の作り出すものは、こんなにも人の興味を引くのでしょうか。そのヒントをもらうべく、お話を伺ってきました。
1.その場所に足を運び、同じ時を一緒に過ごす。
以前は広告代理店など、多くの人が間に入る仕事もしていましたが、今は取引先と直接繋がり、戦略的な企画提案からデザインの制作まで、全て自ら行っています。
デザイナーの仕事としては、情報を整理し制作物に落とし込む必要があるのですが、その段階でアッコさんが大切にしているのは“出来る限り現地に足を運んで、彼らと同じ時を共有する”こと。
果物を作っている人なら、畑に行く。
どんな景色を見て、どんなにおいの中で、どんな音を聴いてものを作っているのか…土を触ったり、香りを嗅いだり…
制作の途中で煮詰まったら、またひとりで出かけて行くこともよくあるそうです。
一日を通し、聞くだけではなく体験としてとらえることで、表現の幅が広がる。
「同じ釜の飯を食べて…じゃないですけど、同じ空気の中にいることで、感じ取れる何かがあるんですよね。他にないものとか、大事にしていることとか」
なぜ人はデザイナーに仕事を頼むのでしょうか。
「彼らは形として表現できないから私に頼むわけでしょう。目に見えないもの、言葉にできないことを、多くの人たちに届くようにするのが私の役目ですから」
自身も気づいていない魅力を掘り起こし、デザインの力で羽ばたかせる。アッコさん流の新しい価値の見出し方が、わかったような気がしました。
2.やるんだったら命をかけるつもりで
アッコさんはグラフィックを中心としたデザイナーでしたが、ある時、こう思います。
「地域を丸ごとデザインしたい」
そこで生まれたのが、加唐島のツバキ油をふんだんに使用したTBK®︎コスメシリーズです。メイクも落ちる石鹸【TSUBAKI SAVON】を皮切りに、マッサージやヘアケアにも最適なオイル、目元、口元を潤し、肌を柔らかくしてくれるバーム、肌をみずみずしく保つローションと、今やラインナップも増えています。
ところでなぜ、コスメ開発に至ったのでしょうか。
アッコさんは自分で会社を興してから数年は、必死でした。会社が潰れそうになるくらい大変な時期もあったそうです。でも、先に書いたように、真摯に向き合ってくれる姿に多くの方が信頼を寄せ、少しずつグラフィックデザインの収入も安定してきました。
そこで思い立ったのが「もっと大きなことをせんと!」ということ。
この発想がアッコさんらしいのですが、その“大きなこと”とは“自分のための仕事ではなく、多く人のための仕事をすること”=“地域を丸ごとデザインする”ということでした。
「地域に住んでいる人たちが、直接手応えを感じられるようなことをしたい」
自分の生まれた場所、唐津のものを使ってそれができないか…探していたときに出会ったのが“加唐島のツバキ油”でした。
「これを選んだのは “生産に島のほとんどの人が関わる” ものだったから」
このツバキ油は島の人々が大切に作り上げたもの。搾油、ろ過まで全て手作業、コールドプレス(非加熱圧搾製法)でじっくり時間をかけて作られ、オレイン酸、ビタミンEが豊富に含まれた品質の高いものです。
“コスメという形でツバキ油に新しい価値を与え、その良さを多くの人が知り、消費量が増えれば、島の人たちの収入も増える”
そんなシンプルな成功イメージがアッコさんの中ではっきりと描けていました。
とにかくまずは話を聞いてもらいたいと、島に渡ったアッコさん。
しかし、現実は厳しく、そこで島の人から返ってきた言葉は「帰りんしゃい」という思いもしなかった言葉でした。
椿はたくさん自生している。でも、大量に搾油するには労働力が圧倒的に足りていなかったのです。
「自生しているとはいえ、うっそうとした森のように草が生えます。草刈りは重労働。木になった実は長い竿で一つ一つ、人の手で収穫をする。でも島の労働力の65%は65歳以上の方。体力的にもすごくきつい作業なんです。“誰がその作業をやるとね?”と言われました」
そこでアッコさんが言い放った言葉。
「私が、人を連れてきます!だからツバキ油を分けてください!」
アッコさんは所属している商工会の青年部の仲間に自分の考えていることを話し、加唐島のために動いてくれないかと持ちかけました。話に賛同した仲間たちはもちろん協力してくれました。
「仲間に恵まれているなあ、と心底思いました」
何度も何度も島へ足を運び、ようやく島の人の協力を得られることになりました。
そして、試作品を作る段階でも、アッコさんは本気を見せます。開発に必要な椿の実を“買い取った”のです。しかも、他の人よりも高値で。
もちろん、そこには成功のイメージがあったからですが、それよりも、島の人の椿にかける想いや今ある問題を考えると、中途半端な気持ちで取り組むわけにはいかなかったんだそうです。
「今までグラフィックデザインで稼いだものを全てつぎ込む覚悟でした。
やるんだったら命をかけるつもりで。」
もちろん、品質にもとことんこだわり、開発した年の2017年に行われたジャパンメイドビューティーアワードではその品質と活動が評価され、優秀賞を受賞。今や海外までその評判は広まっています。
国内外で活躍するメイクアップアーティストの方も愛用していて、魅力はプロの目線からもさらに多くの人に伝わっているようです。
初めは厳しい態度で接していた島の人たち。そのわけは「今までは、自分たちが頑張って搾油したものが結局何になっとるのか分からんかったけん、むなしかった」から。
TBK®︎が生まれたことで加唐島の存在とツバキ油の価値が多くの人に伝わり、単価も上げることができました。興味をもって島に訪れる人も増えたそうです。
また使っている人の顔が見えると感想がダイレクトに伝わるので、やる気にもつながります。島の人たちはアッコさんに「おかげでみんな頑張ってツバキ油採りようとよ」「地元にこういう人がいてよかった」と言ってくれるそうです。
「何より、地元の人が“誇り”を取り戻したことが一番嬉しかったです」と、アッコさん。
想いが強いぶんだけ、強い変化を生み出すのかな、と思いました。
3.光と影、どちらも愛する。
ここまで聴くと、さぞかし地元愛に溢れた人なんだろうなあ~と思いきや…地方出身の方、特に反抗期が激しかった方は共感する部分があると思いますが、以前は「何してもすぐバレるし目立つし、親もうるさいし、好かんかった!」と言います。
いつしか“変わった子”という目で見られていると感じ、そんな地元が嫌で嫌で仕方なかったアッコさんは15歳の時、デザインを学ぶため高校入学と同時に地元を飛び出します。
専門学校は福岡、就職は名古屋へと、地元から離れた生活を続けていました。
そして2010年、福岡で起業した後、呼子に久しぶりに帰ってきたアッコさん。そこで目にしたものは…
「幼い頃は賑わっていた朝市通りが、今は人も歩いてなかったんですよ」
起業してすぐの時期…仕事も軌道に乗らず、地元は地元で寂れてしまっている。もやもやしていたアッコさんがその時出会ったのが、地元の商工会の皆さんでした。
「デザインの仕事をするなら、〇〇に顔を出してみたらいいよ」と人を繋げてくれたり、仕事をする上でのアドバイスなど、いろいろなことに力を貸してくれました。そして、彼らの“地元を良くしたい”という想いに触れることができたのです。
「私もデザインの力で、地元を何とかしたい。この人たちと一緒なら、きっと何でもできる」
自然とそう思えるようになったのだそうです。
TBK®︎の開発を始めた時、初めは島の人たちに断られたアッコさん。その時に力を貸してくれたのも商工会の仲間たち。それから毎年、生い茂った雑草の草刈りに通い、みんなで椿の木を守ってくれています。当初は体力的にきつい、と言っていた島の人たちも今は「みんなが草刈りしよるけん、自分たちも出てきたばい」と、何だか楽しそうに作業しているそうです。
TBK®︎の開発がきっかけで、アッコさんは2018年「若い経営者の主張大会」佐賀大会、九州大会を経て全国大会に出場。そこで語った内容が多くの人の興味をひき、講演会に呼ばれることも多くなりました。地域を活性化させるためのワークショップにも参加し、だんだんと、グラフィックの枠を超え、地域を丸ごとデザインする機会も増えています。
「私だけの力ではありませんね。みんながいなかったら、今の私はなかった」
地元には思春期の苦い思い出もあるし、現在は寂れてしまっているところもある。でも、加唐島のツバキ油という、誇りを持てる宝物がある。そして何より、同じ想いを抱く仲間がいる。
光と影を両方愛することで見えてきたもの…それはアッコさんのこの言葉に現れているような気がしました。
「小さな島の、大きな“希望”をのせているんです。TBK®︎は」
可能性を見出し、信じること。目まぐるしく変化する世の中を生きていく中で、この言葉はとても心に響きました。
「その人の習慣が人生を創る」とよく言われます。あなたはどんなことを習慣にしていますか?
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「and You?」のコンセプト&経緯はこちらから
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illustratration & text by HISAKO ONO
【イラストレーター 尾野久子】
福岡県出身。映像制作会社勤務を経てイラストレーターとして独立。
想いや考え、価値を伝えるためのイラストレーションをウェディング、ショップ、医療施設、飲食店、TVなどさまざまな媒体に展開しています。
https://lifetalesbyh.com
【今回の企画についてのコメント】
さまざまなことを経験し、紡いできた「その人自身の物語」。
そのかけらをイラストレーションとして表現することで、その人の生き方や価値観を多くの人が知るきっかけになりますように。「こんな人がいるんだな」「こういう生き方もあるんだな」「この人のこの習慣、真似してみようかな」と、この記事が何らかのヒントになれば嬉しいです。
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supported by HOOD天神