Vol.09 ~学ぶことの楽しさを、これから先もずっと~
松本(岸)智子さん
静かに、そこにいるだけなのに…その人と接していると、どんどん知らなかった自分を発見していく、といった経験はありませんか?
普段、見過ごしてしまっている自分の気持ちや潜在的なものを、さまざまな形で引き出し、目の前にある新しい扉を開けてくれる…智子さんはそんな人です。
智子さんは普段、何をしている人ですか?と尋ねると
「実は…社長夫人なんですけど」と軽い笑いを交えながら言います。
「主人のサポートをしたり、グラフィックレコーディング(以後グラレコ)描いたり、講座やったり、ワークショップを企画したり運営したり、たまに大学で教えたり…」
なんと、活動範囲がとても広いのです。詳しくはこちら
だんだん“複業”や“パラレルキャリア”という言葉が浸透してきましたが、実際に、智子さんはどのようにしてそのキャリアを築いてきたのでしょうか。自分だけでなく、人の可能性まで引き出してくれる智子さんにヒントをもらうべく、ご自身の習慣についてお話を伺ってみました。
1.迷ったら、行け!
なんと智子さん、物事を決めるときは、あまり考えずに行動に移すそうです。
「とにかく行ってみたら、思いがけない関係性が広がっていくから」
例えばどんなことがありましたか?と尋ねてみると、
「吉川晃司のツアーです」と智子さん。
こういうところがとってもお茶目だなあと思うのですが、智子さんは吉川晃司さんが大好き。でも以前は、なかなかライブに行く機会がありませんでした。
それは、アイドルとしてデビューした当時から大好きだったけれど、どんどんアーティスティックになっていく姿になんとなく違和感を感じ、曲は聴くけどそんなに夢中になれず、そのうち仕事でいそがしい日々を送るようになり…アーティストのライブに行く、という選択肢が自然となくなっていったからです。
時は過ぎ、仕事もプライベートも余裕が出てきた頃。たまたま全国ツアーの情報が目に飛び込んできました。その時の智子さんの気持ちは「全国ツアー…?! 行きたい!! けど、どうしよう…」でした。
まずは休みが取れるか、そして旅費。何より
「好きだけど、」
何かが自分の心を阻んでいる…!!あの繊細な感じです。
でもここで智子さんは一大決心。ライブツアーに行くことを決めます。
「それが行ってみたら、あまりにも面白くて楽しくて、かっこよくて!!」
詳細を覚えていないくらいの感動があったそうです。
ツアー終了後「明日からもがんばろ」と、シンプルに思えた。智子さんは言います。
「後から気づいたことですが、同時期くらいに “学び” を始めて、私の生活が変わっていったんです」
お話を聞いて、何かをきっかけに人生が動き出す瞬間って、あるんだなあ…と思ったのですが、この後、智子さんの活動の幅がどんどん広がっていきます。
当時、企業で“社員の育成プラン”を企画していた智子さん。会社という組織の中で、利益も考えながら人と人とが良い関係でいられるようにマネジメントするのは大変なことでした。そこで「会社以外で、何か面白いことやろう」と通信制大学に通い始めます。
何かを学ぶということは、知らなかった世界の扉を開けるようなもの。学校で出会った人たちはみんな好奇心と探究心にあふれていて、その仲間と一緒に過ごす時間も本当に楽しかったそうです。
ちょうど、仕事で80人ほど部下を抱えていた智子さんは、マネジメントに行き詰ることもあったそうです。そんな時、授業の中で「チームで動く時に大切なことは何か」「やる気を上げるために大切なことは何か」ということについて深く考えることができ、実践しやすくなりました。
その充実感から「もっと学び続けたいな」と思うようになり、大学院にも通い始めます。その時に出会ったのが、組織社会学を研究していらっしゃる長岡健先生。長岡先生を通じてワークショップや、職場や業種の枠を超えて色々な人と触れ合う楽しさを知り、社内で対話型のワークショップを行ったり、様々な場に出かけるようになります。
そして、社外の勉強会で出会った人からたまたま「理系男子と肉食系女子をつなぐ婚活」のワークショップをやってみませんか?」という話が舞い込んできます。“参加者どうしが安心して話ができる場づくり”が大好評。好奇心の赴くままに深く学んだことが、功を奏した瞬間でした。
それから様々なワークショップの企画や運営を手がけるようになり、講師としてのお仕事も増えてきました。
すべて始まりは、ちょっとしたことがきっかけ。
現在 “楽しいノートの取り方” として多くの人に好評のグラレコ講座も 、きっかけは友人がノートに手描きで描いたものを見せながらワークショップの進行をしていたことから。「これイイかも!」と思って「手書きで描く」ことを始めたのでした。
「“面白そう、知りたい” と思うと調べたくなりますよね。吉川晃司の写真を撮っている人がいて、今度はその人自身に興味が湧いて、写真展に行ったこともあります。どんどん世界が広がっていきます」
そう話す智子さんの表情は、好奇心にあふれた子供のようで、「迷ったら、行け!」という言葉の奥には「行きたい、やりたい!」というシンプルな気持ちが溢れているんだなあと思いました。
2.新年を迎える時間を、じっくり、かみしめる。
皆さんは年の瀬に、どんなことを考えて過ごしていますか?
智子さんは、毎年お正月に向けて準備するものがあるそうです。
一つは、干支の置物。これは親しい友人にも贈るそうです。始めに贈ったときに思いのほか喜んでくれたことがきっかけで、それから毎年続けています。
街がイルミネーションに包まれる頃、多くの店舗に並び始める新作の干支の置物。「今年はどんな形になっているかな、どんな表情をしているかな」一つひとつ吟味しながら選んでいると、自然と贈る人の顔が浮かんできます。なんとなく気ぜわしい季節ですが、そんな時に誰かのことを思い浮かべる時間は、とても優しい時間に思えます。
また、年賀状も欠かせないものの一つ。松本家の一年間を9コマに区切って展開していくのですが、智子さんと旦那さんにそれぞれ起こった出来事や、飼い犬の真次郎くんのこと、今年の漢字…と、話題は多岐に渡ります。「ああ、今年は引越しをしたな」とか「電化製品を新しく買ったのも今年だったな」とか。こうやって振り返る過程がまた楽しい。
年を重ねるにつれ、今年も早かったなあ~と思うものですが、こうやって一つひとつの出来事を振り返ると、とっても充たされた一年に思えてきますよね。
そして、干支の手ぬぐい。智子さんは額縁に入れて玄関に飾るのだそうです。家に帰ってきて一番始めに目に飛び込むのがその年の干支。それだけで「新しい年になったんだなあ」と毎日思えます。でも、智子さんはこうも言います。
「年が変わっても、だいじなことはずっとだいじなまま」智子さんは今年100個、やりたいことリストを作りました。これは2018年から始めたことだそうですが、今年の2020年は2019年と内容が重なるものが結構あったそうです。例えばグラレコ講座のブラッシュアップや新しいことにチャレンジする、ということなど。
それは「ずっとやり続けたい」と思っていることだから。
大切なものは変わらない。だけど、バージョンアップはしていく。
智子さんが、菩薩のような安定感がありながらフレッシュな雰囲気を持っているのは、こういった習慣からきているのかなあと思いました。
3.ルーティンがけっこう好き。
この春はコロナウイルスの影響で、外出や講座の機会も減り、家で過ごす時間が増えました。そうすると「毎日のルーティンって、けっこう好きだな」と思うことに智子さんは気づいたそうです。
朝目が覚めたら、30分ほど愛犬・真次郎くんの散歩に出かける。そして旦那さんを送り出し、朝ごはんを食べて、朝ドラを観る。“朝ドラ受け”まで観終わったら、ゆっくり時間をかけて新聞を読む。
これを繰り返している毎日が、とても愛おしいと言います。
「いつもと変わらず散歩をしている真次郎を見ていると、犬にとってはコロナとか関係ないよな、と思ったりします。そのおおらかな様子のおかげで、日常と平穏が保たれているような気がするんです」
今後世界は大きく変わる、と盛んに言われている今、もちろん変化していくことは必要だけれど、変わらないものに癒されるのも、また事実。ルーティンが好き、という言葉がとても穏やかに響きます。
智子さんと接していると「一つひとつの過程と、ていねいに向き合っている人だなあ」と感じることがあります。
例えば、最近私が見学したワークのお話。それは、1枚の絵を色々な角度や視点で見て「何を思ったのか」「なぜ、そう思ったのか」を自分なりに紐解き、ほかの人と話や発想を交換するワークでした。
生活の中で体験する、とある出来事。その時、何を思ったか、なぜそう思ったか?なんて、深く考える機会は意外と少ないですが、智子さんのワークでは、その部分にフォーカスしているものが多く、それで新しい視点を発見することも多いと感じます。
ていねいに向き合うことで、見えてくる新しい視点。
それを繰り返すことが、自分を進化させていく秘訣なのかな、とも思いました。
智子さんの講座を受けた方たちは、回を重ねるごとに表情が生き生きと輝いていくそうです。智子さんは言います。
「それはきっと、自分に自信がついたからなんですよね。学ぶ過程で、悩んだり考えたりもがいたりすることも、もちろんあります。でも、最終的に “やり切った!やれた!” という自信ができる。そして自分自身の強みやこだわりも知ることができ、ぶれなくなるんだと思います」
智子さんは、学ぶ楽しさを教えてくれる人。そして、自らも学び続けている人。
「この春からJD(女子大生)になったんですよ!」
なんと、完全オンラインの大学院で “アートとデザイン思考” を学び始めたのだそうです。ものすごく倍率が高いこともあったので躊躇したそうですが、そこは「迷ったら、行け!」の信念を貫き、見事試験に合格。
受講しはじめて2ヶ月弱、現時点での感想はというと…「まだまだ“学ぶことが楽しい”という境地には達していませんが、次々と出される課題に苦しみながら、脳みそに汗をかく感覚を味わっています」だそうです。今はちょうど、悩んだり考えたり、もがいたりしている最中なんですね。
いつまでも、目の前に現れた新しい扉の向こうをワクワクしながら想像し、もがきながらも突き進んでいく智子さん。この後、智子さんの前にはどんな世界が広がっていくのでしょうか。今度お会いした時にまた、聞いてみたいと思いました。
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「その人の習慣が人生を創る」とよく言われます。あなたはどんなことを習慣にしていますか?
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illustratration & text by HISAKO ONO
【イラストレーター 尾野久子】
福岡県出身。映像制作会社勤務を経てイラストレーターとして独立。
想いや考え、価値を伝えるためのイラストレーションをウェディング、ショップ、医療施設、飲食店、TVなどさまざまな媒体に展開しています。
https://lifetalesbyh.com
【今回の企画についてのコメント】
さまざまなことを経験し、紡いできた「その人自身の物語」。
そのかけらをイラストレーションとして表現することで、その人の生き方や価値観を多くの人が知るきっかけになりますように。「こんな人がいるんだな」「こういう生き方もあるんだな」「この人のこの習慣、真似してみようかな」と、この記事が何らかのヒントになれば嬉しいです。
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