Vol.07 〜いつもの場所に、魔法をかける〜
cafe Ruruq(カフェ るるん )
坂口麻衣子さん
博多駅から新幹線のふかふかのシートに揺られて約8分、博多南駅に着きました。
ここは2018年に町から市になり、新しい風がさわやかに吹いている“那珂川市の入り口”です。
列車から降りて駅直結のビル“ナカイチ”の2階に行くと…これまた新しい芽吹きを感じる場所があります。
それが今回取材させていただいた坂口麻衣子さんが営む「cafe Ruruq(カフェ るるん)」
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カフェといっても特別な仕切りはなく、お隣のイベントスペースや待合スペースとゆるく繋がったつくりが、とっても開放的。
ここを利用する人たちは「気づけば行きたくなって、来てみると長居してしまう…」のだそうです。
この不思議な居心地の良さはどうやって作られるのでしょう?
店主の麻衣子さんに、その秘密を伺ってきました。
1.身の回りに本を置いておく
麻衣子さんは、お家でもお店でも、目に入るところに本を置いているそうです。なぜなら
「“自分の頭の中で考えていること”に出会うことができるから」
…それは、どういうことでしょう?
麻衣子さんは続けます。
「例えば空を見上げて“きれいだな”と思うこと、ありますよね。」
そんな気持ちになったまま、目に入った本をひらく。そうすると…
「同じ本なのに、書いてあることが以前と違って見えてくるんです」
以前は何とも思わなかった文章が美しく見えてきたり、このフレーズはこういう意味だったのか!と腑に落ちたり。その違いに気づくことで、自分の今の心境が見えてくる。
何をするにも気が向かない時、考えがまとまらない時も、本をひらきます。
そうすると…
「頭の中の、まだうまく表現できていない考えを、一歩先に進めてくれるんです」
目に入った言葉は、きっと今自分が気にしていたり、大切に思っている言葉。
「ああ、こういう表現の仕方もあるんだ。そうそう、私はこれと同じことが言いたいんだ。」
“自分の心”と“出会った言葉”とを共鳴させる。考えがまとまる…
cafe Ruruqでは定期的に(ゲリラ的に?)さまざまなイベントが企画されています。
お店をアートで埋めつくす『アートジャック』を始め、『リコピンカフェ』『食堂おかみのごはんの日』などなど…日にちや時間帯によって全く印象の違うイベントです。
名前を聞いただけで「何だろう?ちょっと行ってみよう!」と興味を持ってしまいます。
いつも新鮮な話題が尽きず人が集まるのは、こうやって麻衣子さんがひらめき、考えを巡らせ、言葉として紡いで、発信しているからなのですね。
麻衣子さんの話を聞いていると、身の周りにある本が、自分の潜在能力を引き出してくれる“魔法の本”のように思えてきますよね。
身近なものをそんな風に特別に感じられる習慣って、素敵だなあと思いました。
2.調理器具はたくさん買わない。
カフェを営んでいる人だったら…お家のキッチンも便利でこだわった調理グッズが豊富なんだろうな…と思ってしまいますが、麻衣子さんはそうではないそうです。例えば、ピーラーがなくても皮は剥ける。スライサーがなくても千切りはできる。
「包丁ひとつあれば、たいていのことはできるんです」
今はキッチン用品も種類が豊富。「これあると便利~!」と思うものがたくさんあります。しかし、そのぶんお金もかかるし置き場所も確保しないといけない。
「洗う手間もかかるので、その時間を人と過ごす時間にあてたい。
何より、“日々、工夫する”ことを大切にしたいんです」
この“工夫する”ということは、麻衣子さんの場づくりにも活かされています。
学生時代から学園祭の企画に携わり、卒業してからもイベント企画会社で働いてきた麻衣子さん。現在、Ruruqの店主というお仕事以外にも、市から委託を受けて町内外でのイベントやプログラムを企画運営する役割を担っています。イベントというものは、予算・場所・スケジュール・出演者…と、色々なことが決められているもの。
「限られた条件の中で、いかにいかにより良いものを届けるか。それが大切なんです」
これだけの予算ならこれぐらいの演出しか出来ない、ではなく、頭を使い手を動かして工夫することで、あっと驚く空間を作り上げることができる。
Ruruqさんのイベントでいうなら『アートジャック』
いつものカフェがアートで埋め尽くされたら誰だって驚くし、アートってなんだろう?と好奇心をくすぐられます。
リコピン野菜を使った特別メニューを出し、麻衣子さんと同じく場作りの仕事をしている“リコちゃん”が一日店主を務める『リコピンカフェ』においても、単に「トマトソースのパスタを食べた」ではなく「リコピンをたくさん摂って、美容にいいものを食べた」と思えたり、いつもと違う店主がそこにいて、言葉を交わすことで、縁が広がったり新たな風が吹いたりする。
お店のディスプレイや打ち出し方一つで、過ごした時間の印象はずいぶん変わります。
「ちょっとした魔法をかけてるようなものですね」
そういって笑う麻衣子さんが印象的でした。
3.人が大切にしているものを、大切にする
Ruruqさんで過ごす人たちを観察してみると…
ひとり静かに本を読む人。
電車の待合い時間にふらりと立ち寄る人。
お仕事かな?打ち合わせをしている人。
散歩の途中に休憩するお母さんと子ども。
常連さんかな?カウンターでおしゃべりしている人たち。
さまざまな人が思い思いの時間を過ごしています。
Ruruqさんのコンセプトは『みんなの場所で、あなたの場所』
まさにそれを実現しているような風景が広がっています。
自分の部屋や家以外で“ここは自分の場所”だと思えるところ…そんなにはないですよね。
麻衣子さんはなぜ、そう思わせる場づくりができるのでしょう?
「人が大切にしているものを、大切に思うようにしています。例えば、パンが好きな人がいたとして、自分の好みと関係なく、まずは大切にしてみる。そうすると、そのことを楽しそうに語るその人のことをもっと魅力的に感じることができるし、そんなに魅力的なパンってなんだ?って、考えたり学んだりする機会を得ることができると思うんです。」
そういう風に考えることができたら、自分の視野も広がるし、何より、この世界は魅力的なものに溢れているんだなあと、愛おしく感じますよね。
だから、思い思いに過ごしているRuruqでの“その人たちの時間”も、大切に思える。
駅直結という、多くの人にとって足を運びやすい立地の cafe Ruruq 。毎日通る人にとっては、生活の一部となりうる場所でもあります。そこでどんな時間を過ごせるのかは、きっととても大切なこと。
『みんなの場所で、あなたの場所』
大きな窓から差し込んでくる光のような、麻衣子さんのあたたかい眼差しに包まれているからこそ、みんなが「ここにいていいんだ」と感じているのだろうな…と思いました。
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「その人の習慣が人生を創る」とよく言われます。あなたはどんなことを習慣にしていますか?
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「and You?」のコンセプト&経緯はこちらから
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illustratration & text by HISAKO ONO
【イラストレーター 尾野久子】
福岡県出身。映像制作会社勤務を経てイラストレーターとして独立。
想いや考え、価値を伝えるためのイラストレーションをウェディング、ショップ、医療施設、飲食店、TVなどさまざまな媒体に展開しています。
https://lifetalesbyh.com
【今回の企画についてのコメント】
さまざまなことを経験し、紡いできた「その人自身の物語」。
そのかけらをイラストレーションとして表現することで、その人の生き方や価値観を多くの人が知るきっかけになりますように。「こんな人がいるんだな」「こういう生き方もあるんだな」「この人のこの習慣、真似してみようかな」と、この記事が何らかのヒントになれば嬉しいです。
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supported by HOOD天神